−想像−

『まっすぐ私の目を見ている。

これから私はこの子を捨て、対決に行かなければならない。

幾重にもわたるトリックをものともせず私の前に立った彼と・・・。

しかたがないことだ、犯行に及んだ時、既に覚悟は決めていた事。

このまま犯行が露見しなければ・・・何度心から祈っていた事か。

ただ・・ただ、この子には私が犯罪者とは知られたくはなかった。

この子の前では綺麗な身でいたかった。

耐えきれなくなり飲物を飲むふりをしながら視線をはずす。

しかし今は嘘をつくときではないことはわかっていた。

そう、嘘をつけばこの子は全てを見抜くだろう。

なにせ賢い子だ。

そして知っていながらその言葉に肯き、それ以上なにも聞くことはない。

私が犯罪者という事実より強く心に傷を残すことだろう。

私は迷いながらも素直に話しをする。

犯罪に走った理由、発見されどうしても殺人を犯さなければならなかった心情。

今一人の男に追いつめられていること、そしてこれから対決しなければならないこと。

「対決せずに逃げるなんてナンセンスだよ、それにね私のトリックを見破る人間がそう簡単に逃がしてはくれないだろうしね」

機先を制する。

「さあ、お別れだよ。もちろん生きて帰るつもりだ、君の前にね」

自分の台詞が白々しく響く、ホントは逃げたい衝動に駆られていた。

でもここで逃げれば私の最後の拠り所である正しさを捨てることになる。

プライドか・・・そんなものは生きるためには必要ないだろうに、自嘲がはしる。

遠ざかるあの子を抱きしめたいという思いを断ち切り私は歩き出した。

そう対決の場所に 。」

−−−−−−

「とまぁこんな感じを部長は味わってみたいわけじゃ。でもなぁ田舎でこういう事件あるわけないじゃろ。」
国政という刑事はいまだ学生の頃の部活動の役職で私呼ぶ、腐れ縁というやつだろう。
この頃は探偵という浮ついた職に居る私に対して偉そうに苦言を呈する。
「あっそろそろ昼の時間が終わりそうなんで帰りますわ、あっいいです、ここのお代はオレが払いますけん。」
そう言うと国政はここの食事代を払い、喫茶店を出ていった。
私は珈琲を頼み雑誌を開き、国政に対する嫌がらせを200通り考えた。


戻る−