−原作−
犯人との距離は20m
犯人は走っていた、追う男も走っている。
全力疾走はかれこれ10年ぶりだろう。
「チクショウ!セオリー通りならっ、犯罪を暴けばっ、自首するもんっ、じゃねぇのかっ?!」
あえぎあえぎ毒づく。
だが、幸島には勝算があった。
助手にバイクで回り込むように指示を出したのだ。
そろそろ助手が待ち伏せている交差点のはずだ。
もう少しがんばろう、自分に言い聞かせる。
期待通りに犯人の前に助手のバイクが止まる、勝った!瞬間思った。
驚いた犯人は交差点を右に向かう、だが何故か助手は追わない。
何故?疑問が浮かんだが、逃がしてはもともこうもないので追いかける。
もちろん助手を睨む事も忘れない、だが涼しい顔で手をひらひら振っている。
憎たらしいと思った。
全力で走ってはいるが、現実には差が広がるばかりだ。
ポケットをまさぐる、ハンカチと張り込みの時飲もうと思っていた冷めた缶コーヒー。
立ち止まり、ハンカチの両端を持ち間に缶コーヒーを挟む。
「距離は30m、フォローの風」
気合い一発、力一杯腕を振る。
犯人の背中にぶつかり、もんどりうつ犯人を捕まえる。
「古代の人はこうやって狩りをしていたんだ、しばらくは動けまい」
やっと徒歩で追いついて来た助手に肩で息をしながら説明する。
ふ〜ん、とさほど感心した様子のない顔に向かって少々大人げなく毒づく
「君はなぜあのとき犯人を追わなかったんだ?」
「あっあれ、一方通行だから」