中華歴774年 秋

「未だ接見も許されぬ」
自堕落にも政庁にも現れぬ王に憤慨するは討伐軍司令官に任命されし老将軍張須龍その人である。王を批判するは不敬なれど、この街の腐敗ぶりはなんたることか、官吏は賄賂を獲るに忙しく将官は水増し請求に時間を費やす。仕事をしているのは自分だけではないか!
清廉でなる張昌殿は諫止に向かって戻らないと聞く。
「力ずくで性根叩き直してくれる!」
興奮して副官の制止も振り切り門衛へ。止める門衛を振り払い、王の元に急ぐ。
老いて益々盛んと言われる武力には止める手だてもないのか、此といった妨害もなく王の間に進む。いぶかしがるも命の覚悟は出来ている。
そして一喝。
「王よ、民心は地に落ち、泣きくれているのに何故政務を執られない!それでも貴人としての責務を果たしたるを言うか!」
一息に言い放ち、幾分少し冷静になれた。回りを見やると王の横に意義を正した士大夫が、横のテーブルには見たことがある顔が並ぶ。
「このものの政務態度は?」
まるで一喝を聞かぬ様子で横に侍る士大夫に王は聞く。
「勤務正しく、清廉であるようです」
ふむ、と眺めやる王は静かに立つ。
「張須龍よ、君に兵2000を与える。この街を狙う賊を討ち滅ぼせ」
伝聞に聞く姿と違う姿に呆気にとられ見守る張須龍に
「老将軍、聞かれましたな。世直しです」
そう笑って答えたのは町医者として歓談を交わした朱然であった。
どうも騙されたと理解するよりも武人の心が騒いだ。
すかさず平伏し、
「御意」
の一言共に彼は足取り軽く兵舎に向かったのだった。


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