中華歴773年 冬

「私はいい皇太子殿下を守れ」葉伯礼は叫んだ。
行軍中助けた童子を馬上に乗せ的確な指示を出し与えている。
いまだ弱冠に手が届かぬ若さで事実上蔡軍の軍師を任されるだけはある。
「承知!」勇猛果敢で鳴る黒武玄が馬を飛ばす、
彼が殿下を守れば万一もあるまい、葉伯礼はそっと息をつく。
期待通り黒武玄はもてる武芸を発揮して血の雨を降らしている。
皇太子が手強いと見るや、組やすしと葉伯礼に敵兵が忍び寄る。
剣撃が一閃。だが葉伯礼は冷静に鉄扇でそっと剣撃を払い、
流れる動作で敵兵の鼻頭に強烈な一撃を与える。
哀れな兵士はどうっと鼻血を流しながら馬から落ちた。
「すごい!」馬に乗せている童子の感嘆。
「なぁに、たいした事はござらんよ」
戦闘の終息を感じながら葉伯礼は言った。
だがこの弱冠の天才もこの童子の発する感嘆が後にどのような
影響を及ぼすかまでは読み切れなかったようだ。
葉伯礼18歳の冬いまだ独身であるが・・・。


同盟軍を誤って攻撃してしまった
かくもこのようなミスをどのように乗り切るや?
張蒼雲は押しが弱いと評判の人物であった。
さてどうする?そう彼は決断した。
「李将軍、黒武玄、左右に分かれて撤退を指揮せよ」
「わかった、張将軍はどうなさる?」「しれたことよ」
一吐き、混乱に満ちた味方兵の中に飛び込んで行く。
「あほうかあやつは?」城壁より眺めている蒼鷲はつぶやき。
その一言は多くの意味でも間違ってはいなかった。
数千の兵の中に唯一騎突撃を敢行するのはまさに無謀と言える。
ただ間違っていたことは尋常ならぬ張蒼雲の武芸の冴えである。
一人、二人、六人、二十四人、次々突破していく、
恐るべき事に唯一人も致命傷を与えず進んでいくのだ。
これはまさに神技と言える。
その神技もまた、限界が現れたようだ、血糊にすべり武器を落とす。
兵達が襲いかかる、槍が弓矢が刺さりながらも彼は進む
同盟軍大将の前に来たときには既にボロボロである、
最後の力を振り絞るように大声で叫ぶ「御指南つかまつる」
同盟軍の大将らしい男が味方の精鋭に囲まれて前に出る
「我が軍を突破した貴兄には感服つかまつるが何故の後存念か?」
張蒼雲は自分たちのミスを認め、ここは双方下がるように説く
真摯であるその瞳に大将は打たれる
「我が軍は兵を引こう、だが我が軍の兵に損害はどのように責任はいかに?」
張蒼雲は一言に答える「我が首にて、部下は」
「その言や善、君の武芸と首にて全てを水に流そう」合図で横の武将が剣を抜く
張蒼雲は目をつぶる、だが剣は振り落とされなかった
武将の剣を弓矢が弾いたのだ。
「落とす命だ!君の命私が貰おう!大将依存は無いな!」
野心家の四川都督の御曹司、呂静文の声が鳴り響いたのだった。


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